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『香水』パトリック・ジュースキント [小説]

最近読んだ小説の中では、ダントツに夢中になった話です。

18世紀のフランスを舞台に、一人の特異体質の男を主人公にした物語です。
特異体質というのは、つまりその男グルヌイエは生まれつき無臭の人間だったのです。自分の体から匂いが全くしないのです。それが原因で乳母から嫌われ、修道院に預けられます。孤児院で育ったグルヌイエはその才能を花開かせます。その才能とは、匂いに以上に敏感で、どんな匂いでも嗅ぎ分けられるというものでした。暗闇でも、部屋のどこに何があるか、隠されているかがわかるほどの匂いの天才だったのです。

香水—ある人殺しの物語

香水—ある人殺しの物語

  • 作者: パトリック ジュースキント
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2003/06
  • メディア: 文庫


この決して美しくはない醜男のグルヌイユが皮なめし職人の徒弟になった時から物語は始まります。まるでわらしべ長者の昔話のようなトントン拍子で、皮なめし職人の徒弟から香水屋の調合師へと転身します。鮮やかな、そして感動すら覚えるその転身劇でもう私はグルヌイユの生き様に惚れてしまったのでした。

ありとあらゆる香水をつくり出せるグルヌイユ。世界中のすべての匂いを嗅ぎ分けることができる彼は、自分の体の中に匂いのインデックスを整理しはじめるのです。貪欲に、思うがままに、無造作に。
そんな彼がある最高の匂いに出会ってしまいます。その匂いのために、彼は犯罪を犯しますが、それとひきかえに、人生の目的を見いだします。同時に彼は自分の内にある雑多な匂いのインデックスを、その目的にかなった方法で統べるための序列を見いだすのです。この辺り、作者の創作の秘密を垣間みるようで読んでいて動悸がしました。

その後、人生の目的のために独立したグルヌイユは旅に出ます(パリで橋が落ちたところは笑いがこみあげて吹き出しそうになります)。その旅はひたすら人のいない場所を求めて山中を歩く旅でした。何年もの間、大自然の洞穴の中で、朽ち果てる寸前まで隠者生活をしますが、啓示を受けて再び人里に戻ってきます。

そこから後半にかけてはグルヌイユの人生をかけた壮大な計画が始まるのですが、それは読んでみてのお楽しみにして下さい。
あらすじを知っていても、読んでみたら絶対面白いですから。
最高の結末が待っています。悪趣味と思われる向きもいるかもしれませんが、美しくも衝撃的な最後です。
果たしてグルヌイユは断罪されたのか、赦されたのか、それとも逃げ切ったのか。
それは読んだ人にしかわかりません。

匂いと云うのは、興味深いものです。それは五感の中でも表立って主張する感覚ではないものの、過去の記憶を思いがけなくもたらしたりするものです。この嗅覚だけで生きて行く醜男グルヌイユにいつしか思い入れを強くしている自分に気づき、なんてこった!と驚愕するのでした。

ついつい書き過ぎてしまいましたが、当分のあいだ、私の中で不動の一位を占めることになりそうです。これが80年代に上辞されているのにも驚きです。

同じ作者の『ゾマーさんのこと』の十倍好き。


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黒糖そば

今年、『パヒューム』として映画化されましたね。3月公開でしたっけ?
さて、出来はいかほどか・・・。映像化は至難の業だとおもいますが。みたかぎりでは、美しい映像でしたけど。
文庫も新しいオビもついて、書店で平積みされていますね。
映画を見た方は、ぜひコメントよせてくださいね。
by 黒糖そば (2007-02-17 19:14) 

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