小村雪岱『日本橋檜物町』 [小説]
先日お伝えした小村雪岱の随筆集『日本橋檜物町』が平凡社ライブラリーから出版されました。
表題の随筆を始め、泉鏡花先生について、舞台装置について、映画の考証について清楚な文章で書かれたものです。人柄が偲ばれます。
最後の仕事が泉鏡花の『白鷺』の映画の考証だったようです。(この映画、見てみたい!)
ちなみに久保田万太郎が雪岱への追悼文でやけぎみに死去当日の話(本当かどうか定かではないが、その日の映画の仕事が終わったあとに「一杯どうです」と若い者を誘ったが断られたのでまっすぐ家に帰ったという話)を書いて、そこで未練がましくも「もしこの時、若者が一緒に飲みに行っていたら・・・」などと云っているが、これはあまりに感情的に過ぎます。若者に非は無いが、と断りを入れているものの、公の文章でこんなことを書かれたらその本人はいたたまれないと思います。まあ、それだけ久保田の悲しみが深かったということかもしれませんが。私はその若者に同情します。
ともあれ、この随筆集は小村雪岱の文才という面でのエッセンスを一望するには最適のものでしょう。芸術論という面では、舞台装置に対する考え方が素晴らしい内容でした。あくまで背景は背景であり、登場人物を押しのけて主張するようなものでは失敗だというのです。当たり前と云えば当たり前のことですが、実際には人間と背景とを調和させることはかなり困難です。例えば服の色調、小物の大きさ、様々な要素を最大限に引き立てる背景こそが良い背景であるという考えはありきたりのようでいて、深いのです。
雪岱の仕事に関しては、装釘、舞台装置の下絵、小説の挿絵など、現在私たちが見られる作品はごく限られています。その全貌が見られる機会は果たして今後あるのでしょうか?埼玉県にはぜひ「小村雪岱記念館」でもつくってもらいたいところです。
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