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『櫻の園』 吉田秋生 [漫画]


櫻の園 白泉社文庫

櫻の園 白泉社文庫

  • 作者: 吉田 秋生
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 1994/12
  • メディア: 文庫


あなたの考える完璧な少女漫画は?と問われて私が答えるのは吉田秋生の『櫻の園』かもしれない。
これを読んだのはたしか高校生の頃だったと思うが、当時の私はこれを「なんてえろい少女漫画なのだろう」と思っていた。男子が求めるえろさではなくて女子のそれ。赤面せずには読めないほどだった。こんなに赤裸々に女の子の現実を描いているなんて、と思っていた。それが本当のことなのかどうかは私にははかり知れない世界だったにもかかわらず、そこには「女の子の本当」がはっきり描かれているという直感があった。これは男子が読むものではない、とまで考えていた。あなたの考える最もえろい少女漫画は?と問われたら、当時の私なら即答でこれを挙げただろう。
吉田秋生といえば『櫻の園』。バナナフィッシュよりもこっちが好きだった(今でも)。しかしなにか近寄りがたい漫画家でもあった。私には『櫻の園』の本当の意味がいまだにわかっていないとずっと(今でも)思っている。男には永遠にわからない世界があって、それがこの漫画の中にあるのだと思う。何か再映画化されるとかで話題になったので、久しぶりに読み返してみた。
頭ではわかったつもりだった。若い頃に読んだ時よりもこの物語の何たるかがよっぽど理解できたと感じた。しかし、だ。
私にはやっぱりこの世界には近付けなかった。その近付けない距離感といったら高校生の自分とほとんど変わっちゃいないのだ。
高校生の時はこの漫画で描かれた女の子の態度や気持ちや会話の内容が半分くらいしか分かっていなかった。今ではそれらの意味も昔よりもはっきりと理解できる。しかし肝心の部分でやっぱりその内部には入り込めないのだ。昔も今もまったく進歩なし。
ここははっきり白旗をあげておくことにしたい。何に?・・・少女に。

「しかし マジでチャランポランをやるには これくらいでめげてはいかんのだよ」
この漫画史上に残る名台詞(私が勝手に決めている)。久しぶりに読んでも同じところで震えた。
絵柄もまったく古びていないし(これは1986年刊行だ)、ときおり挿まれるやまだ紫調のトーンの使い方やコマの切り取り方も美しいと思う。ファッションがどうのこうの言い出すのは野暮というものだ。
ひとつだけ、「ひどい あたし いろんな男の子とつきあったけど 売春なんて絶対してない お金なんてもらっていない 何いわれたっていいけど これだけはいや こんなのひどい」という台詞があるのだけれど、ここには少し思うところがあった。きっと今でもこういう台詞を言って涙を流す女の子はいるはずだけど、その言葉が意味するところが微妙にずれてしまっている現在では、ほんのわずかだが隔世の感を抱かずにはいられなかった。

あなたの考える完璧な少女漫画は?と問われて私が答えるのは吉田秋生の『櫻の園』である。
それは「完璧すぎて男には入り込めない少女漫画」という意味かもしれない。
もしくは「絵から台詞からコマ割りからストーリー展開からなにからなにまで完璧な少女漫画」ということかもしれない。
こういう少女漫画を読んで、私は自分が女の子だったら面白かったのかなあ、苦しんだり泣いたり笑ったりできたのかなあ、などとのんきに夢想したのだった。
そしてかつてこれを「えろいなあ」と感じた自分に対して「これをえろいと思うなら、お前は死ぬまでえろく生きねばならぬのだ」と説教したい衝動にかられるのであった。
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