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アイルランド憧憬 『魂の大地』ドーナル・ラニー [愛蘭]

(以下の文はウェブ上の別の場所で掲載したものの再録です)

 アイルランドという国が好きです。

 そこは、ユーラシア大陸をはさんで日本とまるで正反対に位置する、最西端の島国です。なぜこの国を好きなのかは、自分でもわかりません。もしかしたら、まったく知らない国だからこそ自分の好みの印象を投影しているだけなのかもしれません。

 妖精の故郷。常緑のエメラルドに輝く島。
 不思議な巨石群が残す古代文明の遺跡。
 荒涼とした大地とそこを愛して生きている人々。
 人々は音楽や詩や昔語りを日常生活に欠かさない。勤勉で素朴で愛想がよく、情に厚い。

 以上は日本に住む私が、普通にこの国を知ろうとすると当たり前のように与えられる印象です。

 しかし、やはり避けて通れないのは英国との歴史です。絵空事に思えるくらいの昔の侵略から始まり、独立までの長く苦しい道のり。絡まりあった人と人の憎みあい。血で血を洗う非情な争い。かつてはテロといえば、この国とともに語られました。

 それから、前々世紀の大飢饉による大量の死者。貧困からの脱出を夢見たたくさんの移民達。脱出できずに土地にしがみついて生きた人々。苦しい歴史を抱えていたアイルランド。
 しかしこの国は、近年めざましい高度成長期を迎えているそうです。「ケルティック・タイガー」と呼ばれ、欧州のなかでも今もっとも勢いがあるといいます。

 私はアイルランドに住んでいません。アイルランド人でもありません。
 公的機関において国交に携わっているわけでも、ましてや一市民として橋渡し的な草の根活動をしているわけでもありません。
 アイルランド人の友人がいるわけでも、親がアイルランド人であるわけでもありません。
 フィドルやティンホイッスルやバウロンやイーリアン・パイプなどの楽器も弾けません。
 アイルランド語(ゲール語)もわからず、歌ひとつも満足に唄えません。

 ただ、アイルランドが好きなだけ。そして、あの国の音楽を聴くのが好きなだけ。
 そういうただの人間なのです。

 20世紀の終わり頃にあったケルト文明ブームも手伝って、あのケルト=癒しという図式が出来上がりました。
 ケルト音楽ブームはヒーリングやニューエイジと同列に扱われる事が多くなりました。けれど、それを抜きにしてこのブームの牽引は不可能だったと私は思っています。
 やがて米国音楽の源流として、カントリー音楽との血縁関係があきらかになり、別の側面での注目を集め始めました。実際、アイルランドでは米国カントリーが大人気なのだそうです。

 そもそも私があれこれ音楽を聴くようになったのはザ・ビートルズの影響です。
 ジョン・レノンとポール・マッカートニーとジョージ・ハリスンは、ルーツを辿るとアイリッシュ系なのだそうです。ザ・ビートルズばかり聴いていた二十歳の頃。
 オリジナル盤だけではあきたらず、他のアーチストがカバーした曲やトリビュートアルバムなどを探していた当時のことです。ある日、一枚の洋楽クリスマスソングの編集盤を買いました。そこにはジョンとポールがソロ時代につくったクリスマスソングが入っていました。ほかにも様々なアーチストが収録されており、私は彼らの曲に興味を持ちはじめたのでした。

 彼らとは、ケイト・ブッシュやクリス・デ・バー、スティーライ・スパンなどです。(ケイトは母方がアイリッシュだそうです。)

 その頃に出たのが、ケイトも参加している『魂の大地』というCDでした。そして、これが運命的な出会いとなったのです。

 このCDはドーナル・ラニーという名プロデューサーが全面的にバックアップした作品です。アイリッシュ系音楽家による、アイルランド音楽の響宴ともいうべき素晴らしいものでした。
 私のアイルランド音楽遍歴は、その時から始まったといえます。
 (再録ここまで)

魂の大地

魂の大地

  • アーティスト: オムニバス, ボノ, アダム・クレイトン, ポール・ブレイディ, モイア・ブレンナン, ケイト・ブッシュ, エルビス・コステロ, ニール, ティム・フィン
  • 出版社/メーカー: 東芝EMI
  • 発売日: 1996/06/19
  • メディア: CD

 新婚旅行でアイルランドへ渡った時はこのCDを持って行きました。どうしても本国で聴きたかったのです。アイルランドでこの音楽がどう響くか知りたかったのです。

 実際にアイルランドで聴いたら、感動もひとしおでした。この音楽で想像したアイルランド像をまったく裏切りませんでした。嬉しかったことを覚えています。


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