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植村直己『極北に駆ける』『北極圏一万二千キロ』『北極点グリーンランド単独行』 [本]

植村直己の北極圏3部作とでもいった趣の3冊。

極北に駆ける

極北に駆ける

  • 作者: 植村 直己
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1977/01
  • メディア: 文庫

『極北に駆ける』では、単身グリーンランドのエスキモー(イヌイトまたはカラーリット)達の生活に飛び込み、犬橇の技術を修得するまでを描く。人々に溶け込むために、荷物運びを手伝ったり、子供たちの注目を集めようとしたりと奮闘するのが(本人は必死だが)微笑ましい。
日本とはまるで違う人々の食生活や、きりなく家に出入りする隣人たちに多少辟易としながらも、植村はグリーンランドに生きる。
老夫婦の養子となり心も身体も郷に入ったころ、本格的に犬橇の訓練を開始する。
鞭の使用法に苦戦させられつつ短距離の走行を繰り返し、ついには仕上げの三千キロ走破を達成する。
その頃にはすでに(はじめは呑み込めなかった)アザラシの生肉の味にも舌鼓をうち、猟にも慣れ、言葉も堪能になっている。
都市生活をしている人間は彼らエスキモーを原始的な人々だと思いがちだが、彼らは彼らで犬橇も乗りこなせず、アザラシ猟も出来ない仲間を都市生活者のようだと馬鹿にする。金に執着せず、毛皮の売買で手にした大金もあっという間に浪費してしまう。陽気で逞しくて誇りを持つ人々。
そんな彼らに愛情を感じ、彼らのようになりたいと思い、数カ月の努力で一人前と認められた植村直己はその精神と技術を持って、エスキモーからも「やめたほうがいい」と止められるほどの冒険に旅立つことになる。

北極圏一万二千キロ (1979年)

北極圏一万二千キロ (1979年)

  • 作者: 植村 直己
  • 出版社/メーカー: 文芸春秋
  • 発売日: 1979/07
  • メディア: -


『北極圏一万二千キロ』は、グリーンランド沿岸から凍てつく北極圏をひた走りカナダからアラスカまでをたった一人で犬橇に乗った冒険行の記録である。エスキモーでさえもクレージーだという行程。
地形や気候もさることながら、犬たちとのコミュニケーションに悩まされる植村。
メス犬をとりあって争い、血まみれの死闘をくりひろげる犬たちと、それどころではない未知の冒険に不安を感じる彼の内面の葛藤が真っ白い氷原を疾走する。
いや、疾走と表現するのは正しくない。氷山あり、渓谷あり、薄氷あり、補給物資なし、という最悪の局面がつぎつぎと襲ってくる。植村の苦悩と奮闘をよそに犬は橇牽きをさぼるし、喧嘩するし、怪我をする。
大事な道具や毛皮を彼はよく無くす。これは、たんに不注意ということではないだろう。零下何十度という世界で冷静な判断力をくだし、鞭をふるう体力を維持し、自分の命を守るのに精一杯な状況では、やむを得ないものだろう。立っているだけでも体力を消耗する世界。生きようと努力をしなければどんどん死んでいく世界。
カナダで越夏(氷が溶けるから)し、アラスカまで勢いで到達する。犬たちは次々と倒れていく。植村の愛惜の情が心を打つ。エスキモーと彼の一番の違いは犬に対する同志愛の深さかもしれない。エスキモー達は弱った犬をいとも簡単に食糧にする。これを残酷で野蛮というのは間違っている。極寒の土地で生きるための智慧なのだ。しかし、植村はそれが出来ない。冒険をともにした犬を呑み込むことが出来ない。とはいえ、それをセンチメンタルと誰がいえようか。善意で出された椀を目の前にした植村の気持ちは本当のものだと思う。この気持ちを持つからこそ、植村は冒険に出るのだ。

北極点グリーンランド単独行 (1978年)

北極点グリーンランド単独行 (1978年)

  • 作者: 植村 直己
  • 出版社/メーカー: 文芸春秋
  • 発売日: 1978/10
  • メディア: -


『北極点グリーンランド単独行』は、前回の冒険から2年後。再び北極圏に舞い戻った植村が、今度は地球の頂点ともいえる北極点への犬橇単独行に挑戦する。
またもや犬たちの行動に悩まされる。メス犬は妊娠・出産するわ、喧嘩で走れなくなった犬が続出するわ、白熊に襲われるわ、もう大変なことになっている。
しかも凍結している氷原も生々しくブキミに動く。ルートを見極めないと命に関わる。
それでも、北極点を目指す冒険に胸が高鳴る。単独行という矜持を胸に、彼はマイナス50度の世界をゆく。これまでも、そしてこれからも選ばれた人間しか体験不可能な旅をする。
ついに極点に達した彼は、休む間もなくグリーンランドにとって返し、いよいよ前人未到のグリーンランド縦断の冒険を開始する。南極大陸単独犬橇横断という夢をもって、植村直己は果敢に挑戦する。
ヒドン・クレバスに消えた犬。
やせ細った白熊。
何千キロも羽ばたいて氷河に落ちた小鳥。
植村は「私にもいつか、このような不測の死が訪れるのだろうか」と述懐する。

犬達はあいかわらずだが、次第に植村を主人と感じ、目でコミュニケートができるほどに親密になる。
これは余談だが、このグリーンランド行は糞の旅でもあった。
犬達は走行中に糞をする。走りながら出来る犬と出来ない犬がいるという。止まっている時にすればいいのに、と彼も嘆くが、犬達は平然と糞まみれなのであった。
また空腹で食糧がつきた時は、犬は自分の糞を食べる。強い犬は弱い犬の糞を横取りして食べる。植村も自分の糞を弱った犬やお気に入りのリーダー犬にこっそりあげたりする。

グリーンランド縦断の冒険は補給なしには出来ないものだった。これを真の単独行ではないという人は冒険の意味を無謀とはき違えている。本人も書いているが、技術の進歩で単独行の意義が薄れるかといえば、まったくそうではないのだ。疑問を持つ人は本書を読めばわかる。読んでもわからなければ、あとは自分でやってみることだ。


追記
以前、私のヒーロー像とはずれていたという話を書いたが、この三冊のほかに、

植村直己記念館

植村直己記念館

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1991/02
  • メディア: 大型本

や、

植村直己 (KAWADE夢ムック)

植村直己 (KAWADE夢ムック)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2004/09/25
  • メディア: 単行本

などを読んで、今度こそあの「植村直己」が私のヒーローに重なりました。


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kenta-ok

「青春を山に賭けて」は、何度も読みました。
by kenta-ok (2007-09-22 10:33) 

黒糖そば

kenta-okさんも世界中を旅していらっしゃいますよね。
nice!ありがとうございました。
by 黒糖そば (2007-09-22 10:50) 

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