松本剛『すみれの花咲く頃』 [漫画]
漫画家の松本剛(まつもとつよし)さんの初期短編集『すみれの花咲く頃』です。
4月1日にNHKで同名ドラマが放映されるそうです。(内容はかなり異なるようですが、見なくては!)
この『すみれの花咲く頃』は、もともとヤングマガジンに連載された5話の物語です。
宝塚にあこがれる高校生の少女と、その秘密を知った(?)同級の少年の葛藤、交流をなにげない日々の情景のなかに描き出した傑作です。
なにせ、無駄なコマがひとつもありません。
しかも、一見すると無駄なコマがあるようなのです。
これってすごいでしょ。
だから、何度も何度も読み返すとたくさんの発見があります。
その他に同時収録された短編も素晴らしいものばかりです。
今回、初めて読んだ「泣かない渚」と「すこし、ときどき」も絶品でした。
松本剛さんの漫画は「あ、あった、こういう気持ち。」という感情を、ほんっとーにうまくすくいとっているのです。
気まずい思い。
わかっているんだけどおさえられない気持ち。
言ってはいけないことを思わず言ってしまったこと。
心にひっかかっている思い。
などなど。
それから、かっこわるい男の子とかわいい女の子!
主人公はたいていかっこわるい男の子で、いきがったりかっこつけたりします。でもまっすぐな気持ちを持っています。
この男の子と出会う女の子は、本当にかわいい。かわいいというのはアイドル的に可愛らしいのではなく、十代のころにクラスにいたような、大人ではないけれど魅力的な(ああうまく書けない)女の子。
「あ、いた、こういうヤロー」とか「あ、いたいたこんな子」。
(感想になっていませんね。)
で、綺麗なことばかりじゃなくて、わい雑なことも平等に描くのが松本剛さんの漫画の魅力です。
いやむしろこっちのほうを得意としているのではないかと思うくらい。
とにかくそのバランスが絶妙です。見えるものを平たんに描くのではなく、きれいなものと汚いものとを混ぜたり、分けたり・・・いや、そうじゃないですね、たぶんきれいなものも汚いものも紙一重なんですね。
松本さんの手にかかると、それが一瞬にして表になったり裏になったりするんです。
だから、松本剛さんの漫画は、ほかの漫画にあるような「これをしたい、手に入れたい、こうなったらいいな・・・(いろいろあって)・・・できた!、手に入れた!、夢がかなった!」という展開には決してなりません(けなしていないですよ、念のため)。
そうではなくて「いろいろある人々がこんがらがって、ほどけなくなった感情の糸が、ほんの少しとけた」というような物語が多いように思います。
それから安定した優しい絵柄、コマ割り、という印象がありますが、実はけっこう表現的に冒険したり実験的なことを試みている気がします。それを表立ってやらないところがまたにくい!
そろそろ新作・・・楽しみにしています!!
コメント 0