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『人情紙風船』山中貞雄 [映画]


人情紙風船 [DVD] COS-031

人情紙風船 [DVD] COS-031

  • 出版社/メーカー: Cosmo Contents
  • メディア: DVD


28歳の遺作となった映画である。だが、この映画を見るのにそんな知識はいらない。
素晴らしく安定した構図の画面と、左右に調和が取れた人間の動き。建造物と河岸のレイアウトと奥行き。その美しく端正なたたずまい。明らかに舞台に敬意と対抗意識を持って映画でしか描けない画面を作ろうという野心に満ちている。舞台の袖から誰かが出てきて、反対の袖へ誰かが消えていく。あるいは挑戦的なまでに奥から全面まで走ってくる人物がいる。画面の快楽というものを確信している。目線の低さもまたかぶりつきだと思えば、この上なく贅沢なものだ。これは誰もが最高の席で同じ場面を見ることができる魔法の光でできた映画というわけだ。観客はその幸福の画面を飽きることなく眺めるだけで良い。このうえなくまぎれもない至福の瞬間に浸れる。
物語は雨上がりの快晴の日から始まり、雨の日と晴れの日を繰り返して、また快晴の朝を迎えて終わる。暗い室内からまぶしいばかりの屋外へ印象的に切り替わる。3つほどの人情劇がゆるやかに絡み合い、ほぼ同時に結論が出される。その幕切れの切れの鮮やかさがかえって不穏な空気を残すことになる。
紙風船が画面の端に映る、その軽妙さとはかなさ。野暮ったい男との対比。粋な男との類似。かけおちへの希望。命のメタファー。そんな風にいかようにも仮託することができる。また仮託しなくとも紙風船が画面にある間は重苦しさはいっとき解放されている。と同時に、壊れやすいものとしての脆さが充満している。この目に見えない空気の動きは最後に町の人々の生活に欠かせない川に、その輝きに飲み込まれる。
こうやって、動かないものと、動くものが同時になにがしかの見ることの喜びを与えてくれる。
これはそういう美しい映画である。
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